Vol.146「発電してみませんか?」 鈴木 靖文


「発電してみませんか?」

鈴木 靖文

 

 

 自転車をこぐとテレビなどの家電製品が動作する「自転車発電」を体験した方はいるでしょうか。ふだん何気なく使っている家電製品を動かすために、どれだけ大変な力が必要なのかを実体験できます。各地の環境イベントなどで使われています。

 例えば扇風機は比較的簡単に動かすことができる機器ですが、それでも1分間ほど発電するだけでも大変なことで、息はあがり、体中から汗が噴き出してきます。扇風機の風で涼む以上に暑くなってしまい、いったい何のために発電しているのか目的を見失ってしまいます。しかし、自分の力で家電製品を打ち負かしたという達成感と充実感に酔いしれ、そんな本末転倒な結果なんかどうでもいいように思えてきます。
 子どものために電動かき氷器を必死で動かすことができたお父さんは、ヒーローになれます。心臓がばくばくして息があがっているのを悟られないように格好つけながら、子どもがかき氷を喜んで食べるのを眺め、ひとつ深呼吸をしたあと「おいしいか?」と尋ね、「うん」という元気な声を聞いて微笑みます。1年に1回あるかないかの「おとうさんすごい!」を言ってもらえる場面です。
 結婚式の披露宴で、新婦が曲を最後まで歌いきるまで、そのカラオケ装置を動かす電力を新郎が発電し続けることができたカップルは、末永く幸せになるといった都市伝説まで生まれています。

 

 サッカーのワールドカップを応援するのにも、自転車発電は大活躍です。大都市の街中の交差点とはいえ夜が更けてほとんどの店が閉まり、試合を自宅で観戦するために家路を急ぐ人たちはみな無言です。そんな街角に、ママチャリにテレビと自転車発電装置を積んで、約束をした数人が集まってきました。装置を組み立て、アンテナを立て、自転車をこぎはじめると、テレビに砂嵐の画面が写りました。砂嵐の雑音はビルの間に吸い込まれていきますが、チャンネルを合わせてサッカーの映像が動き出すと、突然、興奮した実況アナウンスが大音量で街に響き渡り、道行く人も足を止めて画面を眺めていきます。しかし長くは続かないもので、3分もすると自転車の漕ぎ手は疲れ果て、画面がとぎれとぎれになったかと思うと、プツンと切れてしまいます。急いで次のこぎ手に交代し、再び試合の画面が写ると、取り囲んだ観客から自然と拍手が沸き起こりました。やがて歩道を埋め尽くすほど観客が集まり、テレビ映像を見ては「日本チャチャチャ」と応援し、テレビ映像が消えたら発電してくれた人に惜しみない拍手と「ありがとう」の声が贈られ、さらには興奮して「次は俺がこぐ!」と言い出す観客が出てきて、いつしかお祭り騒ぎになってしまいました。騒ぎすぎて警察の方も来られました。すみません。


 電気を作ることは、なぜこんなに楽しいのでしょうか。実用性があるのか、なんて質問するだけ野暮なほど、発電はわくわくするものです。今まで電力会社に楽しい発電を任せてしまっていたのは、大変もったいない話です。実用性といえば、太陽光発電も水力発電も、自分たちで設計し保有できる時代になっています。小さなものであれば、自分たちで手作りすることもできます。確かに天候に左右されたり、思い通りに電気を使えない面はありますが、太陽が照るかどうかに依存しているだけですので、おてんとうさまに腹を立てても仕方ないでしょう。むしろ自然に合わせて、分けていただける範囲で、余裕をもって生活をするのが本来の形です。いつでもコンセントから同じように供給されているというほうが、明らかに不自然です。
 ちなみに自転車発電に実用性は全くありません。もともと、どれだけ家電製品をつけるのか大変なのを実感してもらい、無駄につけっぱなしにしないよう呼び掛けることを目的に制作したものです。例えば、シャワーのお湯を作り出す(温める)ためには、自転車を300台並べて、300人が汗水流してこぎ続けるのと同じだけエネルギーが消費されます。そんなことをイメージしたら、シャワーを無駄に流しっぱなしにすることの罪深さを感じることでしょう。
 「現代人は、食料として摂取するエネルギーの約50倍のエネルギーを消費している」ことが、検定公式テキスト第3版に記載されています。化石燃料に頼れないいま、自分の力で操作できる量のエネルギーで豊かな社会をつくることに、もっと知恵を使ってもいいのではないでしょうか。そもそも社会は人間のパワーで作られているのですから。
 自転車発電装置は、いまから24年前、地球温暖化防止京都会議(COP3)が開催される直前に完成し、お披露目することができました。回路図はインターネットで公開していますので、どうぞ楽しんで製作してください。

 追伸:遅ればせながらアラフィフにしてロードバイクにめざめました。自動車や鉄道でないと行けないと思い込んでいた場所に、自分の足で行けるのは喜びです。通勤も、ちょっと遠回りしてお花見・観光地めぐりができ、なかなか乙なものです。

鈴木 靖文

【プロフィール】
鈴木 靖文

 博士課程を単位認定退学し、家庭のCO2排出削減とごみ減量を目的に、京都で創業。有限会社ひのでやエコライフ研究所代表取締役。CO2削減診断ツールは「うちエコ診断」として環境省からリリースされている。2020年より3R・低炭素社会検定事務局。

うちエコ診断WEBサービス https://webapp.uchi-eco.jp/ 
有限会社ひのでやエコライフ研究所(自転車発電) https://www.hinodeya-ecolife.com/

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