Vol.106 「改正民法を簡単に知るには?」高嶌 英弘



「改正民法を簡単に知るには?」

高嶌 英弘


(1)民法が大改正されました

 2017年の5月に、民法の一部を改正する法律」が成立、同年6月に公布されました。
 新しい民法の施行、2020年4月1日が予定されています。
 今回の改正は、現行の民法を大きく修正し、新しいルールを大幅に取り入れているため、今後のわれわれの日常生活に、企業取引活動にも大きな影響を及ぼします。

 とりわけ、われわれ消費者の日常生活との関係だけでも、以下の諸項目に要注意です。

◎消滅時効制度が大きく変わります。
 たとえば、貸金の消滅時効は、いままで10年でしたが、今後は原則5年で時効にかかります。

◎買ったものに不具合があった場合等に、売主の責任を追及しやすくなります。
 この場合に、代替品を請求したり、修理を請求したり、代金の引き下げを求めたりすることを正面から認める条文が設けられました。

◎利息を定めずにお金を貸した場合、年利5%ないし6%の固定利率が適用されていましたが、新法では、利率が変動制になります。

◎保証人を保護するための制度が強化されます。

さらに、これらの新ルール導入以外にも、金融取引に関わるルールが大きく変更されたり、実務上確立しているルールが明文化されたりするなど、今回の改正内容は多岐にわたっています。


(2)改正の概要を知るには

 このように、今回の改正内容は我々の生活に密接に関わっていますが、非常に広範囲に渡っており、かつ専門的な事柄も少なくありませんので、改正内容をしっかりと勉強するにはかなりの時間が必要です。
 しかし、忙しい生活の中で、改正民法の勉強だけに多くの時間を割ける人はそれほど多くないでしょうし、現在のところ、その種の研修の機会も多くありません。

 そこで、30分で改正の概要を理解するのに適切な解説論文をご紹介します。
慶応大学の鹿野菜穂子先生が執筆された「民法改正の概要とポイント ~契約に関する主な改正点~」です。 本解説は、ウェブ版国民生活2017年10月号12頁以下に掲載されており、非常にわかりやすくツボを押さえた解説ですので、ぜひ読んでみてください。


(3)どこがどう変わったのかをもう少し詳しく知るには

 また、もう少し詳しく、具体的にどの制度のどの条文がどのように変わり、今後の実務にどのような影響が予想されるのかを具体的に知りたいとお考えの皆さんには、以下の参考書を推薦します。
 潮見佳男ほか編著『Before/After 民法改正』 (弘文堂、2017年9月11日発行)

 この解説書では、新民法で変更が加えられた制度ごとに、改正前と改正後で具体的にどのように変わったかを想定事例を用いてわかりやすく説明されています。(編著者の一人である京都大学の潮見先生は、今回の改正立法に大きく関わった研究者の一人です。)
 私が読んでもわかりやすいので、民法改正でとりあえず何か1冊、とお考えの方は、ぜひご一読ください。


(4)消費者契約法に及ぼす影響を知るには

 改正民法には、契約の効力に関連するルールの変更が多く含まれていますので、これらの新ルールが消費者契約法にどのような影響を及ぼすかを明らかにする必要があります。
 しかし、残念ながらこの点はまだ十分には検討されていません。
 この点を検討した数少ない資料として、法学教室441号に「債権法改正後の消費者契約法」という特集が組まれています。
 かなり専門的な内容をふくみますが、ご関心のある方はぜひ目を通してみてください。

 

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高嶌 英弘

【プロフィール】
高嶌 英弘(たかしま ひでひろ)

京都産業大学法学研究科教授
京都産業大学という京都の北のほうにある大学で、民法、消費者法、医事法を教えています。
消費者教育の内容と体系化にも関心を持っており、今後は環境問題を含めた消費者教育のシステムを充実させる必要があると考えています。

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