Vol.95 「清掃事業の『東京モデル』を世界に」 深井 祐子



「清掃事業の『東京モデル』を世界に」

深井 祐子

 「東京二十三区清掃一部事務組合」。
 皆さんにはなじみの薄い名前ではないかと思います。
 まずは「一組」の紹介から始めましょう。


 東京23区の清掃事業は、広域的な大都市行政として歴史的に東京都が担ってきました。
 しかし、清掃事業という住民生活に身近なサービスは基礎自治体である23区の自主性を高めていくためにも各区が行うべきとして、2000年4月、23区に移管されました。
 その際に、ごみの収集・運搬は各区が行うこととしましたが、清掃工場などの中間処理施設を持たない区もあり、より効率的に共同処理を行うことを目的に23区の総意で設立された特別地方公共団体が清掃一組です。
 ただし、ごみの最終埋立処分は23区と清掃一組が東京都に委託して実施しています。
 23区の廃棄物処理は3つの組織が連携・協力しながら進めているという特徴があります。


 さて、私はその清掃一組で国際協力事業を担当しています。
 近年、アジアをはじめとする海外の途上国では、急速な経済成長や人口の増加とともに、社会インフラ整備の遅れなどにより、様々な環境や廃棄物にかかわる問題に直面している国々が少なくありません。
 一組と23区では、これまでに培ってきた大都市における廃棄物処理のノウハウや技術を活用し、そうした諸問題を共に解決し、大きな視点で見れば地球環境の保全にも貢献していこうとするものです。
 一組の国際協力は「3R推進」・「持続可能な低炭素社会の実現」を目的の一つとしているのです。


 国際協力の手法として、私たちは「東京モデル」というツールをベースにアジア諸国等への技術指導・ノウハウの提供をしています。
 「東京モデル」は、江戸時代から、東京の廃棄物処理の大きな転機となった高度経済成長期における「ごみ戦争」と言われた出来事などをどのように乗りこえ、3Rの推進や焼却処理等によるごみ量の削減など、最終処分場も延命というだけでなく、資源循環型社会のための清掃事業を模索し確立してきたのか、ごみの排出から最終処分までの取組を一つのモデルとしてまとめています。
 そして、その核となるのは、廃棄物処理における住民・事業者・行政の連携・協働の重要性についてです。
 900万人を超える人口を擁する23区でのきめ細かな分別のための住民理解と協力への努力、都市部に21か所の清掃工場を設置し安定的な運営を可能にしてきた住民との合意形成への取組、環境対策、新たな技術の導入などの実践と成果を「東京モデル」の強みとし、それぞれの国や地域の特性にあった各国・各都市の「モデル」づくりにつながるよう支援を行ってきました。


 具体的な取組の形としては、環境省や政府機関が行うインフラ海外展開事業における廃棄物分野の官民一体FS事業などへの参加・協力や、国際協力機構(JICA)「草の根技術協力事業」を活用したマレーシア・クアラルンプール市での都市間の住民相互交流も交えた廃棄物処理における住民協力の仕組みづくりなどがあります。
 今年度からは、インドネシア・ジャカルタ特別州で行われている「ごみバンク」という仕組みを活用し、3R推進などの支援に取組む予定です。
 今後も相手国や都市の方々との相互理解を基本に、押しつけではなく、ともに考え実践できる国際協力を一歩一歩着実に進めていきたいと考えています。

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ジャカルタごみバンク リサイクルバッグ

 



【プロフィール】
深井 祐子(ふかい ゆうこ)

東京二十三区清掃一部事務組合 清掃事業国際協力室長
以前は23区の一つである葛飾区で教育、国際交流、環境・清掃、財務など多くの分野を経験。
その中で、廃棄物・環境分野をはじめ、行政のあらゆる分野で住民との協働のあるべき姿を模索。
国際協力でもその経験を活かしたいと考えている。

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