Vol.90 「熊本地震から3Rを考える」篠原 亮太



「熊本地震から3Rを考える」

篠原 亮太


 明治の物理学者で随筆家としてもよく知られている寺田寅彦が「災害は忘れた頃にやってくる」と言った至言のとおり、それは、熊本地域を突然襲ってきた。


 4月14日と16日の二日にわたり、震度7を超す大きな地震が益城町を中心に発生した。
 この時点まで、熊本を南北で二分するように、大分県まで延びている布田川断層と日奈久断層が存在していることは、ほとんど知られていなかった。
 八代市(県南)出身の友人によると、子供の頃から「八代の地下に断層が走っており、いずれ大きな地震がやってくる(九州が二つに割れるかも知れない)」と言い聞かされていたそうである。
 八代市の人々は、直撃の地震ではなかったが、とうとうやってきたと感じたことだろう。

 今回の地震によって、益城町、南阿蘇村とその周辺地域は、壊滅的打撃を受けた。
 阿蘇地域では、カルデラ盆地の入り口にあった黒川に架かる阿蘇大橋が崩落し、熊本地域の人々の心の拠り所でもある阿蘇神社の大部分が崩壊した。
 さらに、江戸初期に加藤清正公によって築城され、日本三名城の一つと言われ、明治22年の地震にも耐えてきた熊本城が半壊した。

 地震発生と同時に停電と断水が発生し、停電は翌日回復したが、断水は長い地域では10日間も続いた。
熊本市域は、水道水源の100%を地下水でまかなっている極めて希な都市である。
 2013年には、国連“生命の水“最優秀賞を受賞しているが、地震による送水管や配水管の断裂による断水は、渇水による断水経験のない熊本市民を苦しめた。


 本震発生後は、余震が引っ切りなしに発生していたが、時間の経過とともに徐々に沈静化してくると、被災者達は生活環境の回復に動き出した。
 全壊あるいは半壊した家屋は、所管の自治体による被害認定を受けた後、解体工事が始められた。

 解体された廃棄物は、燃やすゴミ、埋め立てゴミ、リサイクルゴミに分別されることになっている。
 平成27年度に策定された熊本県の廃棄物処理計画では、一昨年阿蘇で発生した水害による災害ゴミの処理で経験した教訓をもとに、災害ゴミの分別方法や集積場所の事前指定、
 運搬や処理における近隣自治体との連携・協力体制などが重要項目として設定されている。
 しかし、行政の指導が行き届いていない地域においては、解体された廃棄物は、分別せずに、取り敢えず震災ゴミ置き場に運ばれている。
 通常の生活ゴミと同様に、一度混ぜられた大量の震災ゴミの分別は、極めて困難になっている。

 一方、家屋に顕著な被害のなかった家庭からは、タンス、食器棚や本棚、机、ソファーなどが持ち出され、1ヶ月も経過すると震源地を中心に大量の震災ゴミが、道路脇に通常ゴミとは別に高く積み上げられてきた。
 中には、ブラウン管テレビ、洗濯機、冷蔵庫、古いパソコン、布団、壊れた自転車など震災ゴミとはかけ離れた大型小型を問わず、様々な便乗廃棄と思われるゴミが出されているのである。
 これらの多くは、大型ゴミあるいは家電ゴミとして、有料で処理されるべきゴミである。
 震災だからといって、許される行為ではない。
 日頃から、学校や職場など様々な場面で3Rを喧伝してきた環境教育はどこにいったのであろうか。

 熊本県の試算では、震災ゴミの総量は100?130万トンとなり、2年間で処理する計画案が提出された。
 地震を含む自然災害は、人間生活のみならず自然を破壊し、環境へ膨大な負荷を与えるものである。
 特に、ゴミ処理問題は看過できない。
 災害ゴミ問題は、被災した地域の大きな社会問題(環境問題)となる。
 熊本地震で発生した災害ゴミが速やかに処理されるかどうかは、国の支援のみならず、各自治体のこれからの環境整備手腕にかかっている。


 自然災害と同様に、人類が直面する地球環境問題は、極めて深刻で複雑であるため、これを解決していくためには、科学的な思考力の醸成に加えて、人間の生き方や社会での行動を見直す必要がある。
 そのため、自律心、判断力、責任感などの人間性を育成しなければならない。
 さらに、他人との関係性、社会との関係性、自然環境との関係性を認識し、「関わり」や「つながり」を尊重できるような人間教育が必要である。
 このような考え方は、持続可能な開発のための教育(ESD: Education for Sustainable Development)と呼ばれ、わが国が2002年に国連総会で提案したものである。
 国連ではユネスコが担当し、我が国では環境省、文科省、農水省、国交省、経産省が共管で既に10年以上、普及啓発を推進しているが、ESDの認知度はまだ低いのが現状である。
 熊本震災を体験して、3Rをどのような場面においても確実に実践できるようにするためには、ESDを取り入れた環境教育の普及が必須であると実感した。

 

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篠原 亮太

【プロフィール】
篠原 亮太(しのはら りょうた)

・熊本県環境センター館長(熊本県立大学名誉教授)
・容器包装廃棄物排出抑制推進員(3R推進マイスター:第20160012)

・1973年に長崎大学大学院薬学研究科を修了後、北九州市環境科学研究所に入職し、アクア研究センター所長、環境局環境保全部長を経て、1999年熊本県立大学環境共生学部教授に転職する。
・水環境科学研究室を担当し、酸化チタンによるPCBsの分解、コンポストに残留するPPCPの調査と環境への影響など、微量化学物質の環境中動態研究を行った。
・2013年に定年退職し、2015年3月まで特任教授をした後、現職となる。
・2010年より環境省3R推進マイスター


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