Vol.86 「本当の意味での『協働』とは?」 山本 祐一



「本当の意味での『協働』とは?」

山本 祐一

僕は、大阪府庁で仕事をはじめて15年になる。
まだ30代なので、庁内ではどちらかと言えば若輩者の部類であるが、これまでに環境分析から規制指導、国からの委託事業、エネルギー政策と、幅広い仕事を経験させてもらってきた。


 どの職場も貴重な経験をしたが、特に最近、僕が関心を持っているのは、行政と市民・NPOとの関係だ。
 よく言われる話だと思うが、高度経済成長の頃と違い、現代の日本では、人々の関心や嗜好が非常に多様化している。
 行政が求められることも実に様々で、あらゆるニーズにきめ細かく対応していくのは、とても難しい。
 そういった理屈で、近年(と言っても随分前からだが)の行政計画の類を見るとしょっちゅう出てくるのがNPOや市民・住民と行政の「協働」という言葉だ。
 響きが良いので、本当によく好んで使われるし、実際これからの時代に欠かせないものだと思う。
 しかし、実際の現場はどうかというと、本当の意味での「協働」つまり、対等な関係性の中で、お互いを補完し合うという形で、良い取組ができている事例はまだまだ少ないと感じる。


 近年、環境問題は、過去に主流だった加害者と被害者がはっきりする公害問題ではなく、地球温暖化や生物多様性、廃棄物問題といった、あらゆる人が無意識のうちに加害者となり、同時に被害者となるような、複雑なものが多くなっている。
 ともすると、地球温暖化をはじめとした地球規模の課題は、対象が大きいだけに全体像がつかみにくく、変化も緩やかなので危機感や切迫感を感じにくい。
 同じ社会課題でも、発展途上国や災害被災地への支援といったものに比べると、どうしても優先順位が低くなりがちだ。
 以前、何かの場で、環境省の事務次官が、「地球温暖化問題は糖尿病のようなものだ」ということをおっしゃっていて、とても適切な例えだなと思ったことがある。
 個人の健康問題に限らず、政府の財政問題しかり、少子化対策しかり、人間社会は、ゆっくり変化するものに対応するのが苦手だ。


 一方で、現代社会はすぐに結果を求める。
 企業の決算は四半期毎なんていうのも当たり前だし、ネット通販などは当日届くものまで出てきた。
 政治に対しても現世利益を求める人が多い。
 子供を持てば、その子の将来ぐらいまでは考える人も多いが、何世代も先の地球のことなど、考えられない人がほとんどだろう。


 そんな状況を変えていくためには、できるだけ多くの人が、自分たちの住む地域や世界の現状と今後について、自分事として関心を持ち、主体的に行動することが重要だ。
 行政に多くを求めるのではなく、行政をうまく利用して、自分たちで地域を良くしていくという発想が求められる。
 そういった行動の核となり得るのが皆さんのような方々であり、そういった関係性から生まれるのが、本当の意味の「協働」ではないかと思う。


 もちろん行政にも課題がある。
 対等な「協働」がなかなか実現しない原因として、行政側の認識がまだまだ不十分ということも大きい。
 例えば、市民との意見交換の場を設けるものの、その結果があまり反映されないとか、行政が業務の下請け的に市民を扱うようなケースも見られる。
 これは市民の主体性の芽を摘みかねないことであり、長期的に見れば行政にとっても良い結果を生まないと思う。


 まだまだ不十分、という話ばかりになってしまったが、全く見込みが無ければこんな問題提起すらできない。
 幸い、諸先輩方の努力もあり、様々な新しい「協働」のカタチが生まれていることも事実だ。
 この流れは止まらないだろう。
 僕はどちらかというと希望を持っている。

最後に、本を1冊ご紹介したい。


 フューチャーデザイン:
 七世代先を見据えた社会(西條辰義)


 現世利益を求めてしまう現代の民主主義・資本主義社会に対して、様々な分野の研究者が議論し、乗り越えるための様々な仕組みづくりを具体的に提言されている好著だと思う。

 本稿の内容は、僕個人がこれまでの仕事を通じて感じたことであり、所属する団体の見解とは一切関係無い。

 

Vol.85_01

山本 祐一

【プロフィール】
山本 祐一(やまもと ゆういち)

大阪府環境農林水産部エネルギー政策課総括主査。
昭和52年大阪府生まれ。
平成13年大阪府入庁。
大阪府公害監視センター、環境管理室環境保全課、みどり・都市環境室地球環境課、環境農林水産総務課を経て現職。


ページの先頭へかえる