Vol.36 大自然を有するカナダで感じたこと 嶋津 治希



大自然を有するカナダで感じたこと   嶋津 治希

 廃棄物関連の研究では長い空白期間のあった私が、3R・低炭素社会検定のトップメッセージを担当して良いものか少し考えましたが、せっかくの機会ですので引き受けさせていただきました。これまでの廃棄物分野にお詳しい先生方のトップメッセージに比べると貧相な内容になりそうですが、その点はご容赦ください。

 まず、最初に簡単に自己紹介をしておきます。現在、大阪にある近畿大学理工学部の社会環境工学科に所属し、講義は衛生工学・環境アセスメントなどの環境工学分野の科目を担当しています。また、学生とともに河川・大気等の環境測定、下水処理場・埋立処分場から排出される化学物質の測定、アマガエル・クマゼミ等の生物濃縮、長瀬川沿いでごみが捨てられやすい場所はどうして捨てられやすいのか、など様々な研究に取り組んでいます。毎年10名程度の学生を指導しますので多くのテーマを考えねばならず、自分の専門は何なのかよくわからなくなるのですが、経験が長いもので言えば「環境化学分析」と「上下水道工学(特に上水道の水質管理)」になります。

 ところで、この 4月から 1年間、在外研究の機会を得て、カナダ・バンクーバーに滞在しています。サイモンフレーザー大学環境学部の環境毒性学講座において化学物質の生物濃縮・生態系リスク評価について研究しています。生物濃縮に関する研究を始めたのは 5年前で、まだまだ初心者レベルですので、こちらの研究室では多くのことを学べています。大自然を有するカナダらしく、研究対象としてアシカ、鹿、狼など大型生物を扱い、食物連鎖を考慮して生物濃縮の問題を捉えています。また、魚類を用いた生物濃縮メカニズムに関する研究、環境汚染評価をするための生物濃縮指標の開発等、興味深いテーマを扱っており、自分にとっては新しいアプローチ、アイデアを吸収できています。

 現在、私が居住しているメトロバンクーバーですが、バンクーバー市を含めて20程度の市、地域等から構成され、人口は231万人(2011年)です。2001年から2006年にかけては6.5%、2006年から2011年にかけては実に9.3%と急激な人口増加となっています。データ的にはそう大きな経済成長をしている訳ではないですが、マンション建築、道路工事などは活発に行われており、街に活気があります。こちらに永住されている日本の方の話では、最近は郊外の森林がどんどん開発されているということで、バブル期の日本を思い出します。

 密度的には日本には及びませんが、自動車も多いです。公共交通機関が日本よりも発展していないためか、通勤手段として車を選んでいる人は70%近くおり、人口200万人以上の都市としては高い数字かと思います。ここ5年は、利用率が若干減少していますが、典型的な車依存社会ですので、低炭素社会の実現は難しそうという感じです。また、廃棄物排出量ですが、1960年代から1980年頃までは約20万トン/年、1980年代から2000年は80万トン/年前後、ここ十年はコンスタントに120万トン/年を超えています。以前と最近では集計対象の廃棄物の種類が若干、異なりますが、近年、廃棄物排出量は急激に増加しているのは間違いないようです。3R・低炭素等の環境対策より、”まずは経済成長を!”と印象を強く受けます。

 このような状況ではありますが、一方で自然を愛し、大事に考えている人も日本に比べて多い気がします。地元のナチュラリストとハイキングに行くと、参加者は樹木、鳥類の種類に詳しく、森林や生物への関心が非常に高いです。また、行政の管理で、山に多くのトレイルコースが整備されていて、最近は日没が午後10時頃ですので、多くの人が仕事後、ウォーキング、サイクリングを楽しんでいます。研究室の教授には”せっかくカナダに来ているのだから、しっかり自然を満喫して”と言われ、スノーシューに始まりハイキング、サイクリング、シーカヤック、湖での水泳など様々な経験をさせてもらいました。大阪では感じることのできない自然の素晴らしさを体感しております。日本で仕事をしていると、無意識に”人のための研究”になってしまっていましたが、今後は”自然”をもっと意識してやろうと思っています。今回の在外研究で、一番大事な点を再認識できたような気がしています。

 最後に検定の合格者および受験予定の方、教科書の知識を頭に詰め込むだけでは、捗らないときがあると思います。そんなときは外に出て自然に触れてみましょう。検定の勉強が何の役に立つか、わかるかもしれません。


The Coquihalla River
The Seymour Lake
   私のお気に入り・その1
  [The Coquihalla River]

 トレイルをマウンテンバイクで走って
  いて遭遇した景色。あまりの川の透明
  さに感動です。
  私のお気に入り・その2
  [The Seymour Lake]

  メトロバンクーバーの水道水源の1つ。
  周辺は保護区域で車はもちろんのこと
  ペットも進入できません。病原性微生
  物が検出されることがありますが、水
  質はとても良好です。






嶋津 治希







【プロフィール】

嶋津 治希(しまづ はるき)

現職:近畿大学理工学部 社会環境工学科准教授

広島大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、京都工芸繊維大学教務職員、広島市役所技師、近畿大学講師を経て、現職。2002年に広島大学大学院工学研究科博士課程を修了し、博士(工学)。専門分野は土木環境工学。

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