Vol.29 3Rは日本社会に根づいているか? 小川 雅由



3Rは日本社会に根づいているか? 小川 雅由

1998年に設立したこども環境活動支援協会(LEAF)の初代会長は、3R・低炭素社会検定代表の高月紘氏です。団体立ち上げからNPO法人として活動を軌道に乗せるまでの間、時には、ハイムーンとしても心和む温かいご支援をいただきました。
当協会の活動の柱の一つが、企業会員と連携した環境教育の推進です。当初、80社ほどあった企業会員の中の家庭ごみ収集事業者や紙、ガラス、鉄、布などの資源回収・リサイクルに関わる事業者の方々と環境教育をどのように進めていけば良いかの話し合いを持ちました。

リサイクル社会を目指そうという社会背景の中で、これらの企業からは悲鳴ともとれる意見が相次ぎました。行政は資源分別を市民に徹底してもらうため啓発活動を強化し、回収に取り組む地域団体に補助金を出すなどの施策を実施しました。その結果、資源回収率は向上し、各事業者は多くの資源を回収することができるようになりました。
しかし、リサイクル製品を製造する企業はまだまだ少数で、回収された各種資源も市場に溢れ始めました。まだまだ海外展開が出来ていなかった時代ですから、国内における資源価格は下がり始めます。資源回収を行えば行うだけ赤字になってしまうとのことでした。地域団体に補助金を出すなら収集事業やリサイクル関連企業にも経済的支援がないと経済バランスが保てないということでした。

では何故、製造メーカーはリサイクル商品を製造しないのか。子どもの環境教育に関係が深い文具メーカーに集まってもらい、リサイクル製品の製造が進展しない理由を聞いてみました。答えは、消費者が購入してくれないものは作れないということでした。当然といえば当然の答えです。企業としては儲からないものを作るわけには行かない。
では何故、消費者はリサイクル製品を買わないのか。デザインが悪い、どこで買えるかわからない、値段が高いなど様々な意見がありました。

つまりは、資源リサイクルを回すということは経済を回すということであるということがよく理解できました。このことを様々な研修の場で、行政担当者、消費者、製造・流通・販売関連企業の人たちに話しましたが、ほとんど初めて聞いたと驚かれました。すべて関係が切れていると思いました。みんな自分のところでは一生懸命頑張っているのですが、全体像を理解できていなかったのです。全体としての手立てが取れていないということです。

環境省でも、「リサイクル社会」から「循環型社会」へと目指すべき社会像を変化させ、今日では「3R」という概念を広げようと取り組んでいます。しかし、現場では「リデュース」「リユース」「リサイクル」の優先順位もまだまだ曖昧です。「リサイクル」が経済循環抜きには成り立たないということも十分に理解されていません。グローバル化の価格競争の中で、産業界の製造部門はアジアへとシフトしました。その結果、リサイクル資源も海外へと流れていきました。日本国内には、製造もリサイクルも残らず、消費と資源分別だけが残っているというわけです。

国内でのリサイクル産業は、相当の努力と工夫をしないかぎり生き残れない状況だと思われます。原材料の生産、製造加工・流通・販売・消費・資源回収・再生品化・消費という一連の流れが国内では維持できていないのが日本の現状でしょう。今後、中国などの中進国の経済力がさらに高まり、自国内での資源回収を徹底すれば、わざわざ日本や海外から資源をかき集めなくても十分に足りる資源が確保出来ることになっていくでしょう。その時、日本はどのようにして分別した資源をリサイクルしていけるのか、製造につながるのか。いろいろ考えなければならないことがあります。

当協会では、2008年度から2010年度にかけてJICA関西センター(当時の兵庫センター)からの業務委託を受け、大洋州地域の国々を対象に廃棄物管理と持続発展教育(ESD)をテーマとした研修を、また2011年度からは、JICAのプロジェクト事業として「大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト(J-PRISM)」が始まり、対象国を対象とした行政職員の能力の向上を目指した研修を受託しています。これらの研修を通じて、島嶼国や発展途上国における廃棄物問題が抱える課題の深刻さに改めて痛感しました。各国における廃棄物は従来までは自然分解が可能な自然由来の国産物品が中心でしたが、近年ではプラスティック製物品や処理困難な家電製品などが急激に輸入され、日常生活で使用されてきました。先進国や中進国の大量生産・大量消費システムの市場に組み込まれてしまったわけです。先進国において、ようやくリサイクル手法や処分方法が確立されてきた段階の廃棄物が処理技術や体制のないところに津波のごとく押し寄せてきたのですから、問題化しないはずがありません。

大洋州諸国での最終処分は、野積みや埋め立てしか方法はなく、その適正管理が急務の課題としてJICAなどの支援を受けてきました。しかし、出口対策だけでは、廃棄物の根本問題は解決できません。プラスティック製品などは土壌で分解するには気の遠くなるほどの時間がかかります。入り口において廃棄物を抑制しないかぎり処分場はすぐに満杯になってしまいます。こうしたことから、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を基本にごみ減量を推進したいのですが、収集する車両は少なく、資金を捻出する財源がない。少ない市場ではリサイクル産業も成り立たないという現実があります。

J-PRISMでは、リサイクルの前にリターンという考え方を入れて、輸出国や企業に適正に収集保管された廃棄物をリサイクル可能な資源として持ちかえらせることができないかということを検討しています。リデュース・リユース・リターンという「NEW3R」を基本として、リサイクルについては製造販売を行う輸出国で行ってもらおうという考え方です。先進国内の企業に問われている拡大生産者責任の考え方をこうした国々との間にも適用できないものでしょうか。

一方、先進国であり、リサイクル技術を持っている日本において、結果的にこの「NEW3R」の様相を呈してきたことは、何とも皮肉なことです。3R推進に取り組まれる皆さんに、先進国における3R推進の意義や国際的な役割についてご理解をいただければと思います。




小川 雅由



【プロフィール】

小川雅由(おがわ まさよし)
こども環境活動支援協会(LEAF)事務局長

【略歴】

1972
年 西宮市役所入所
1998年 「こども環境活動支援協会(LEAF)」の発足に携わる
2003年 西宮市環境都市推進グループ課長着任
2006年 西宮市退職
2007年 NPO法人こども環境活動支援協会事務局長就任 現在に至る
2007年 神戸女学院大学人間環境学部非常勤講師(~2009年)
2010年 神戸女学院大学大学院非常勤講師

ページの先頭へかえる