森田 一

(2009年5月 第2号)

活動する都道府県: 京都府
所属団体:株式会社エー・ティ・エー(上方落語評論家)

  今はもう誰も知らないような古い落語の小咄に、こんなのがある。
さる大店の丁稚に、寝小便が続く。問いただしてみると、厠にばけもんが出て、夜、行くのが怖いのだという。番頭が試しに、件の厠へ夜中に行ってみた。用を済ませて出ようとすると、下のほうから「マタ、オイデ~」と声がする。びっくりして逃げ帰り主人にカクカクシカジカ・・。大店の主はさすが肝がすわったもので、番頭を伴い、自ら厠をしらべにゆく。あちこち見ても、別に怪しいものは無い。隅に落とし紙の箱があり、店の書付の反古が切って積んである。「ははあ、これやな」と主。「これとおっしゃいますと?」と番頭。「書いたものがものをゆうたんや」。というのがオチである。係争の時、証文などが証拠として残っていると強い。という意味で使う「書いたものがものを言う」という表現を掛け言葉にした笑いだ。紙一枚、最後まで大切に使われた江戸時代。リユースは当たり前のスタイルであったのだ。この話には「紙=もの」に対する畏敬の念も、当時の空気としてあったことを物語る。
  3R検定の受験対策セミナーを受講して驚いた。日本の国からゴミとして出る食べ残しが年間700万t。賞味期限前にパックのまま捨てられたものが手付かずゴミの6割。今に、地底から、食べられなかったもの達の悲鳴が聞こえてきそうだ。せっかくのリーダーのタマゴ合格。いろんな機会に、ものに敬意をはらうライフスタイルを実践、啓発してゆきたい。了。

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