Vol.99 「付加価値のミソと隠し味で、ポジティブにアップ!!」鈴木 榮一



「付加価値のミソと隠し味で、ポジティブにアップ!!」」

鈴木 榮一


1.ルーキーならではの環境学習プログラム
 私はこの分野において、まだ駆け出しである。
勤務先の環境学習施設の開館(2009年)と同時に、現職に就いて以来のキャリアだ。
長年博物館運営や展示関係の業界にいたので、ESDや環境関係の業務知識はほとんどなかった。強いて言えば、地域のエコミュージアム活動に参加していたくらいか。
 環境関係に縁がなく、しがらみのない白紙状態が幸いしたのか、新設施設の諸事業では常に利用者視点を大切に、既成概念のない様々な活動ができた。
 一方、地域特性を活かしたユニークな事業(里山ヨーガ教室や里山珈琲講座等)が環境学習にそぐわないのではとのご指摘もあったが、多種多様な事業展開は地域のみなさんに大好評で、その成果として本施設の利用者数は鰻登りに増加した。
 具体的な諸活動は、本施設のホームページやブログでご覧いただきたい。
国崎クリーンセンター啓発施設「ゆめほたる」



国崎クリーンセンター啓発施設「ゆめほたる」の利用者数推移
図1: 国崎クリーンセンター啓発施設「ゆめほたる」の利用者数推移


 本施設の第一目的は、「環境を学ぶ」場の提供にある。
施設を利用していただき、運営スタッフのノウハウを活用していただけてナンボだ。
地域のみなさんが確実に施設へ足を運ぶためには、施設運営に施設や地域の特性を活かした「付加価値」をつけなければならない。
 学校教育や公民館活動と同じような講座式学習だけでは差別化は図れず、利用者がわざわざ辺鄙な立地条件(※最寄りの公共交通機関まで徒歩2時間近く)の施設へやってくることはない。
この付加価値こそ、本施設の秘密兵器である。
 秘密兵器と言っても、簡単な話だ。
まずは、「楽しい」ことから始めるのだ。
楽しさ、喜び、感動というポジティブな感情を与える体験型学習レシピを考え、それを進化させていく。
同じレシピの繰り返しであると、どんなに旨い味わいでも飽きてしまう。
 この進化が付加価値の「ミソ」である。
 各プログラム毎に異なった付加価値とミソがあるので、個別については本施設の情報から推察いただきたいが、現在私たちが取り組んでいる「アップサイクルへ向けた加工技術開発」について、次に簡単に紹介しよう。


2.アップサイクルへ向けた加工技術
 現在、本施設ではアップサイクルを目指した各種ワークショップや工房製作が中心である。
 付加価値のつけかたひとつで廃材が高価な商品に化ける可能性がある「アップサイクル」の定義は、その付加価値の尺度が曖昧で、リサイクルとの境界が明確でないけれども、廃素材をその形状のまま利用するだけでなく、「ひと味」付け加えるような加工が付加価値の「隠し味」になることが、これまでの実践を通して分かってきた。
 廃材の持つ魅力をさらに引き出す、そんな廃材加工を施せば、これを利用する製作者のイマジネーションも膨らみ、付加価値の高い創造的な作品を生み出すことも可能だ。
 本施設の実践例として、間伐材(癒やしの木玉)と廃ガラス瓶(ガラス細工)を活用するための「隠し味」付加装置を次に示す。



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図2: 木玉製造装置の開発


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図3: 一升瓶までカットができる自動ボトルカッターの開発



3.第28回廃棄物資源循環学会研究発表会について
 上述のような環境学習プログラムや施設運営ノウハウについて情報を得る機会がある。
 第28回廃棄物資源循環学会研究発表会(本年9月6日~:東京工業大学大岡山キャンパス)の中で、環境学習施設研究部会が開催する「環境学習フォーラム」(6 日15:15~16:45、西9 号館3F W935)及び「企画展示」(西9号館3F W934)(※いずれも一般公開/入場無料)において、全国の環境学習施設のみなさんが集い話し合われる。
 また、アップサイクルへ向けた加工技術については、6日の研究セッション「A5 住民意識・環境教育」にて拙論を発表する予定である。
 興味のある方は、是非ともご参加をお勧めしたい。

 

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鈴木 榮一

【プロフィール】
鈴木 榮一(すずき えいいち)

1956年生。
1978年上智大学理工学部物理学科卒業。
2002年より岡山市役所入庁、デジタルミュージアム開設準備室長として建築開館業務にあたる。
2009年より現職の国崎クリーンセンター啓発施設・所長。
本業以外の研究テーマに、万葉集(古代文学)、坪田譲治(児童文学)、犬島製錬所(岡山近代史)等があり、各研究における著作及び継続中のプロジェクトがある。
おかやま古写真DB委員会、坪田譲治研究会、「文学と岡山」製作委員会、瀬戸内海文化を考える会、万葉情報システム調査会、環境学習施設を考える会などの事務局を担当している。

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