昔ながらの道具たち-わっぱの弁当箱-


『昔ながらの道具たち-わっぱの弁当箱-


山口 茂子

 皆様、こんにちは。東京在住の山口茂子です。

 今回の昔ながらの道具は、曲げわっぱのお弁当箱です。薄い板を曲げて作られる容器で、お弁当箱として使われるほか、前回のテーマであったおひつや、最近ではコップや菓子器などさまざまな用途の製品も登場しています。

わっぱの弁当箱
 注文してから約3週間かかって届けられた箱を開けるとそこにりんとした姿で収まっていました。写真ではわかりにくいかもしれませんが、板の合わせ目にあたるところは、職人さんの感で、斜めに薄くスライスされ、合わさったときに厚ぼったくならないようになっています。止め部分に使われているのは、桜の木の皮です。


 この写真は、数日前に届いたばかりの品です。木目の美しさ、すみずみまで気配りされた職人さんの技。注文して、代金を支払い、手元に届いたのにもかかわらず、まだ自分の持ち物になりきっていないせいか、近くて遠いところにあるような感覚です。箱から取り出すのもふたを開けてみるのも緊張します。

 この数ヶ月、昔ながらの道具について、連続で記事を書かせていただきました。良い機会と思い、以前から欲しかった曲げわっぱのお弁当箱を購入しました。安い買い物ではありませんが、これから大事に使っていけば、おそらく私が生きている間は、ずーっと使い続けることができるだろう、そして日々の大切な食事の主役である「ごはん」を美味しくいただけることは間違いないだろう、そう思い切ってのことです。

 原材料となる木は秋田杉で、そのなかでも柾目の板を使っているそうです。なぜ、柾目の板なのか・・・。

 柾目とは、板を製材したときに現われる年輪などの模様で、ほかに板目、杢目があって、柾目とあわせて3つに大別されるようです。天然秋田杉の柾目の板には、わっぱのお弁当箱特有の水分調整のための浸透性があります。柾目の板は、ちょうど、セルロースの木管が隙間をあけて並んでいる状態になるそうで、毛細管現象によって水分を吸いこんだり出したりといった作用が起きているという説明書きがありました。これによって、お弁当箱のなかのごはんは、水分調整が行われて、美味しくいただくのにちょうど良い状態が保たれるのです。

 参考までに書いておくと浸透性のない板目の板は、酒樽や桶など、水分を保存する道具づくりに使われます。かつて日本人がどれだけ木材を知り尽くして、その恩恵を受けていたかがよくわかると同時に、一体どのようにして、どれくらいの年月をかけて、こういった知恵を身に着けていったのかがとても気になります。

 曲げわっぱは、江戸時代に、豊富な森林資源を利用して、藩下級武士たちが副業として製作を奨励されていたというのが始まりのようです。一時はプラスチック製や金属製の容器におされてだいぶ苦戦を強いられたこともあるようです。なかには、プラスチックに負けないように、ウレタン塗装を何重にも施した品を出していた職人さんもいたようですが、その方はある日、自分の作ったお弁当箱のごはんを口にして、塗装の臭いのきつさに驚き、本来の役割をはたしていないお弁当箱の製作をやめ、昔ながらの白木のお弁当箱の製作に戻ったという記述がありました。天然木の持つ水分調整の機能が十分に果たされるためには、白木でなくてはならないということです。

 前回、「おひつ」について書かせていただきましたが、まさしくおひつもまったく同じく木の働きによって、ごはんを美味しく守ることができています。このお弁当箱も、ときには少量サイズのおひつとして活躍することもできるとありました。

 そしておひつでも書きましたが、もう一つの重要な役割があります。秋田杉の持つ殺菌の効果です。これにより、常温で夏でも1日~2日(地域やお米の状態によって異なるそうです)は、ごはんが傷まずに美味しく保たれるとあります。朝作って、数時間後にいただくお弁当にも、もちろん最適です。


大根の葉の塩ゆでと大根の糠漬けのシンプル弁当
 ごはんを中心に大根の葉をさっと塩茹でしたものと大根の糠漬けでシンプルな
お弁当を作ってみました!

 そして、この美しい機能的な道具を末永く使っていくには、適切な手入れはかかせません。熱めのお湯でふやかしてから洗う、直射日光は避ける、よく湯切りをしてかわかす、洗剤は使わないなどいくつか守る事柄はあるようですが、どれも日常的に習慣づけるようにすれば、実行できそうな範囲のように思います。

 使って捨てるより、大切に手入れをするというほうが、心豊かな日々につながるように思います。わたしもこれからお弁当づくりを無理のないところで楽しんでいこうと思っています。容器がかわるだけで、写真のような質素な内容でもとても豪華に美しく見えます。目で楽しみ、味を楽しむといった日本人ならではの文化も感じられます。

 高価な品ではありますが、一生モノのお買いものと思って、皆様も何かの節目や贈り物、記念にいかがでしょうか?

 今回も拙い文章を最後までお読みいただいて有難うございました。

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